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ふっかふかの土ベッドで野菜はうまくなる。

防潮林のおかげであまりよく見えないが、林の向こうは海だ。別府湾が広がっている。温暖な気候、ほどよい潮風も気持ちいい。「観光農園っていうかそういう商売されてもいいんじゃないですか?」この土地のあまりの心地よさに思わずそんなことを聞いてしまった。「そうやね、そういうのもええなあと思うけど、人が入ると畑が荒れるから、もしそういうことをやるならそれ専用にしないとね。」 この肥沃な畑は昨日今日で出来たようなものではない。 先代の持ち主からずっと、化学肥料は使わず無農薬農法を受け継いできた希少な土地だ。ここで観光農園だなんて、私はなんて浅はかなことを言ったのだろう。けれど、この農園には言葉では表現しがたいパワーのようなものを感じる。たしかに、さっき頂いたカラーピーマンもトマトも驚くほど甘く美味しい。「子供がピーマンを嫌いってよく言うのは、あれ苦いからやねんけど、本当はピーマンってそんなに苦くないねん。化学肥料を使うから苦いねん。」化学肥料を使わないのは、路地ものではたいへん難しい。レタスとか葉物野菜を無農薬栽培するのは、工場型の農園で生産すれば比較的容易だ。しかし、そうなると肥料は液肥になって、今度は美味しく作るのが難しくなる。路地もので日の光りを浴びて育てる場合、きれいに並べてたくさん栽培すると、虫との戦いとなる。 岡井さんの畑は、失礼だが草ぼうぼうだ。あえてそうしてある。「こうやってほっとくねん。」雑草も生えず、畑が絶えずきれいなのは、つまり栄養が足りないから。すると肥料をたくさん入れ、虫もたくさん来る。有機栽培といっても、実際のところ肥料はたいして使わない。草が生えてもほったらかし。伸びたらカットして、また土に入れる。自然農法に近い。虫をあんまり嫌いすぎると薬を使わざるを得ない。岡井さんの葉物野菜は、虫食いだらけだ。でもそれも一興、コケットではお客様に「無農薬の野菜なので、虫食いだらけですが…」と説明している。お客様のほうもまったく気にしない。むしろ「安心の証」と言ってくださる。「作ってるものに愛情かけてとはいうけど、僕が考えてるのは、自然に即してやって行くっていうかね、環境を壊さないこと。ただし、自然農法がじゃあ究極に良いのかっていうと、それではみんなが食べられない。ごく一部の人しか食べられない贅沢品になってしまう。」自然農法のように究極的にこだわると収穫量が格段に少ない。そこまで究極でなくても、収穫量もそこそこで、美味しくて、環境を汚さない。そのへんがちょうどいい。なにごともバランスが大事だということか。しかし、バランスを保つことほど難しいことはない。料理でも「いい塩梅」という言葉があるが、足らずでもなく過ぎているでもない、ちょうどいい塩梅というのが難しい。岡井さんは、畑に手間をかけるというよりも、気を掛けているように感じた。 いつも気にかけている、心を向けている、それこそが愛情なのだ。子育ても似たようなもので、遊びや旅行に連れて行くことや服や道具を買い与えるよりも、いつも気にかけてやることが大事だ。そうすれば、子供のちょっとした心の変化にも気づいてやれるし、大事な時に手を差し伸べられる。なによりも子供自身が、心を向けられていることへの安心感の上に伸び伸び育つ。畑に初めて足を踏み入れた時に感じたパワーのようなものの正体が分かったかも知れない。それは岡井さんの“気”だ。“こころ”と言いかえてもいいだろう。「何事も心がけ一つで何とでもなる」とか「心を込めて」なんて言葉をよく聞くし、口にもする。しかし、その“心”とやらが一体どんなものか、正直よく分からないで使っていることも多い。心って、パワーなんだな。心というパワーは、付け焼刃で得られるようなものではないし、長い人生の中で自然と身に育つものだ。岡井さんのパワー(心)あふれるあの農園にもう一度行きたくなった。 お話をおうかがいした「オーガニック農園メープルファーム」岡井宏士さん八栄子さんご夫妻。 取材:鴨谷香(Coquette)

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激うま野菜の生まれる虫くい農園

「ちょっと食べてみ。」 そういって枝からちょんと切って差し出されたカラーピーマンを一口食べてみた。 あま~い! なんだこれはってくらい甘い。 野菜をこんなに甘く感じたのは正直言って初めてだ。なんでこの人の作る野菜は、どれもこれも美味しいのだろう。 ずっと前から抱いていた問いの答えを求めて、この日、コケットのある中津市から車で約1時間、大分県速見郡日出町にある「メープルファーム」さんに訪れた。 別府湾を望む高台にその農園はある。 この日は朝から急に冷え込んで、秋というより冬の気配を感じる肌寒い日だった。 農園は海風の気持ちいい高台にあると聞いていたので、厚めのシャツにパーカーを着込んで出かけたが、日出町に付いてみるとびっくり。 空は雲一つない晴天で、汗ばむ陽気。約27年前、オーガニック農業のために大阪から日出町へ移住された岡井さんご一家。 当時は、オーガニック野菜はけして一般的ではなく、まだまだ特別な存在。 無農薬に取り組む農家さんは全国的にも少なく、それはつまりオーガニック農法に適した農地自体が少ないということだった。 そんな希少な農地を探し求めていたとき、ふとしたきっかけで日出町のこの高台の空き地に岡井さんはたどり着いた。 積極的に売りに出ていた土地というわけでもなく、あまり期待せずに訪れてみると、土地には草が茂り、ミカンの木は成るがままにたくさんの実をつけていた。 そのとき、地主の方が岡井さんのお子さんに「これあげよう。無農薬やで。」とミカンを一つもいでくれた。 岡井さんのお子さんは「へぇ~無農薬やって!」と目を輝かせ「めっちゃ美味しい!」と感激し、美味しそうにほおばった。「それからやねん、あんたらやったら売ってもいいと言うてくれはってね。」 じつは地主の方は、これまでずっと有機無農薬で様々な作物を栽培してきた方だったので、この土地を引き継いでくれる人もオーガニック農家であってほしいという思いを強く持っていたのだった。 まさに運命の出会いだったのかもしれない。 ところで、私たちがこの農園に入って、まずはじめにとても驚いたことがある。 それは、地面がふかふかに柔らかいことだ。まるで真新しい綿布団の上を歩いているかのように、土中に靴がめり込んだ。 「これはねえ、草を生やしては切り、切った草がそのまま土に還るを繰り返してるからなんや。つまりそれだけ有機物が多いんや。」 この農園は過度な除草はしない。 自然に生えた雑草はそのまま放置して、ある程度で切ってそれがまただんだん土に還って行く。 その循環が肥沃な農地を作っている。 畑全体が堆肥化した土に覆われているかのように畑の中のどこを歩いてもふわふわの柔らかい土。 前の所有者の時代から有機農法を続け、重機を一切入れたことのない証でもあり、化学肥料などを一切取り入れずとも十分に肥沃な畑が出来上がっている。 紫水菜、ハンダマ、トマト、パプリカなどの野菜があちこちに一畝二畝ずつくらい様々な種類の野菜たちが並んでいる。何も植えず休ませている畝には野花が咲いている。 結局はこの野花たちもいずれは畑の肥となる。落ちて食べきれなかった栗もいずれ畑の肥料になっていく。 科学の力も機械の力も借りずにこの農園だけで循環している。 「これカボスね。この木だけでコンテナ3杯くらい採れるねん。」 ともかく農園にはカボスだけでなくゆずや甘夏など果樹もたくさん栽培されている。「柑橘はね、原則的に無農薬いうのがないねん。無農薬で作るのはすごく難しいんや。 作物いうのは、同じ種類のものをたくさん集めるとそれなりの虫が絶対につく。 せやからうちみたいにあちこち色んなものが植わってると虫が付きにくいねん。」 なるほど~!そういうことか。 「カボス農園いうて何百本もカボスの木を植えてたらものすごい虫が付く。それぞれの作物に害虫がいるんや。 たとえば畑全部にジャガイモを植えてジャガイモ農園にしてしもたら、テントウ虫だましという虫がつくねん。 その虫は茄子も好むから、たとえば近くに茄子を植えてたら茄子も同じようにやられるわ。」 作物それぞれに好む虫がいて、たくさん植えたらそれだけ虫を呼ぶことになる。 だから無農薬で作物を育てるには、大量作付けをせず、さらに先の例のようにジャガイモと茄子などの同じ虫がつきやすい作物は離れた畑で栽培するなどの、テクニックを要する。 そういえば、以前訪問した福岡県のオーガニック農家さんも小さな畑をあちこちにたくさん持っていて、それぞれに違う作物を栽培していた。 よくテレビなんかで見る、見渡す限りのレタス畑みたいな大規模農園っていうのは、オーガニックでは無理なんですね~。 「あはは、そんなんしたら見渡す限りに農薬まかなあかんわ。」 一見ごちゃごちゃした空き地のようにも見える畑だが、ごちゃごちゃにはちゃんとした意味があったんだ。 (次回へつづく)

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