第三話 守りたかったもの、母としての決断
2020年。
世の中はコロナ一色でした。
テレビをつけてもコロナ。
ニュースを見てもコロナ。
誰もが不安の中にいました。
でも当時の私には、コロナ以上に大きな問題がありました。
長男のことです。

詳しいことはここでは書きません。
ただ、当時の私は必死でした。
子どもを守ること。
それだけを考えて生きていました。

思い返せば、
あの頃の私は未来を考えていませんでした。
というより、考える余裕がありませんでした。
今日を乗り切ること。
今週を乗り切ること。
それだけで精一杯でした。
そんな中で、
私は一つの決断をします。
大分を離れることでした。
---
もちろん迷いもありました。
5年間育ててきた店があります。
大切なお客様もいます。
スタッフもいます。
---
それでも私は決めました。
どうせ世界は変わる。
コロナが終わった後の世界がどうなるかなんて誰にも分からない。
でも一つだけ分かっていたことがありました。
❝この騒動が終われば世界は変わる。❞
子どもたちを守らなければならない。
そのためなら何でもしよう。
できるなら、この大騒ぎの最中、今しかない。
そう思っていました。
---
移住先は兵庫県朝来市でした。
両親が暮らしていた土地です。
両親が近くにいれば状況も変わるかもしれない。
家族も立て直せるかもしれない。
そんな願いもありました。
---
そして2021年。
私たちは朝来へ移住しました。

けれど人生は思ったようにはいきません。
問題が解決したわけではありませんでした。
むしろ新しい問題が次々にやってきました。
---
慣れない土地。
慣れない暮らし。
雪。
極寒の冬。
家事。
子育て。
経営。
そして家庭の問題。
---
正直なことを言うと、
あの頃の記憶はあまりありません。
それくらい毎日が嵐でした。
---
それでも、
朝来の暮らしには救われることもありました。
朝、縁側の戸を開けた瞬間の澄んだ空気。
小鳥たちの声。
庭を横切る鹿の姿。
どこまでも続く山並み。
---
大分とはまったく違う景色でした。
その景色は、
疲れ切っていた私の心を少しずつ癒してくれました。
---
そしてもう一つ。
あの頃の私には、
小さな光がありました。
---
孤独な暗闇の中で、
時々話を聞いてくれる人がいました。
唯一の相談相手でした。
その人はいつも、
私が見えていなかった景色を見せてくれました。
---
その時の私はまだ知りませんでした。
その小さな光が、
長い長いトンネルを抜ける道しるべになることを。
(第四話へ続く)