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第二話 学校で噂の店では終わりたくなかった。


2015年。

ぼろ小屋を改装して始めたCafe Coquette。

開店初日のお客様は、たった一人だけ。

夫の幼なじみでした。

普通なら不安になる場面かもしれません。

けれど私はなぜか嬉しかったのを覚えています。

飲食業界では、最初のお客様が男性だと縁起が良いと言われていたからです。

「これはきっと大丈夫」

そんな根拠のない自信がありました。

今思えば、ただの楽観主義だったのかもしれません。

幸い、お店は一か月ほどでそれなりに賑わうようになりました。

お客様のほとんどは10代から20代の若い女性たち。

みんな口をそろえて言いました。

「学校で噂になってるんです」

店内はいつも明るくて賑やかでした。

けれど私は、その言葉を聞くたびに少しずつ不安になって行きました。

「学校で噂になる店」

それは一見すると良いことです。

でも同時に、

「流行が終われば忘れられる店」

ということでもあります。

若いお客様は客単価が低く、流行にも敏感です。

このままでは長く続く店にはなれない。

そんな予感がしていました。

そこで私は店の方向性を大きく変えることにしました。

ランチは二十四節気をテーマにした野菜中心のメニューへ。

店内の半分は天然素材のかごや器、暮らしの道具を扱う雑貨スペースへ。

ターゲットも若い女性から、大人の女性へ。

ゆっくりと時間を過ごせる場所へ。

少しずつ店の景色が変わっていきました。

とはいえ、経営は決して順風満帆ではありませんでした。

人気店と言われるようになるまでの約2年間。

毎月のように、

今月もスタッフの給料を払えるだろうか。

そんなことばかり考えていました。

ある日、一つの商品に出会いました。

見た瞬間に思いました。

「これは絶対に売れる」

そう確信した商品です。

今でもコケットの人気商品である、

日ノ出ボールポット。

私自身が使っていて、本当に良いと思えたものでした。

問題は、お金がなかったことです。

仕入れたい。

でも仕入れる資金がない。

私は人生で初めて借金をしました。

全額をその商品の仕入れに使いました。

怖くなかったと言えば嘘になります。

でも不思議と売れ残る気はしませんでした。

結果は予想以上でした。

あっという間に完売。

追加で仕入れても売れる。

また売れる。

それは単なるヒット商品ではなく、

「自分が本当に良いと思ったものは、お客様にも伝わる」

という大きな自信になりました。

それから少しずつ。

本当に少しずつ。

お店は成長していきました。

週末だけだった行列。

それが毎週末になり。

平日にも並んでいただけるようになり。

開店前から待ってくださるお客様も増えていきました。

ある日突然人気店になったわけではありません。

気づいたら、そうなっていました。

そしてもう一つ。

Instagramです。

当時はまだ今ほど当たり前ではありませんでしたが、

「Instagramを見て来ました」

そう言ってくださるお客様がどんどん増えていきました。

広告費は全くかけていませんでした。

来てくださったお客様が投稿してくださり、

また別のお客様が来る。

そんな積み重ねでした。

2019年。

開店前から行列ができる店になっていました。

スタッフも増え、店は忙しくなりました。

お店独自のイベントも開催し、地元テレビ局の取材も来ました。

私はようやく思っていました。

さあ、ここからだ、と。

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そんな時でした。

コロナです。

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最初は数か月もすれば終わると思っていました。

誰もがそう思っていたと思います。

でも春が終わる頃には気づいていました。

これは簡単には終わらない。

世界を変える歴史的事件になる。

そう感じました。

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店を休業しなければなりませんでした。

一番つらかったのはスタッフに伝えることでした。

私にとってスタッフはアルバイトではありませんでした。

お店の一部でした。

一緒に店を育ててきた仲間でした。

家族のような存在でした。

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そして私たちは決断しました。

大分を離れることを。

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久しぶりにスタッフ全員が集まりました。

きっとみんな、再開のための話だと思っていたと思います。

私も本当はそう言いたかった。

「また店を開けよう」

そう言いたかった。

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でも私が伝えたのは、

移転の話でした。

実質的な閉店でした。

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あの日のみんなの顔を、今でも忘れられません。

スタッフは全員涙を流していました。

私も泣きました。

Cafe Coquetteは、私一人の店ではありませんでした。

みんなで育てた店だったのです。

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開店初日のお客様は一人。

そこから始まった小さな店は、

たくさんの人に支えられながら成長しました。

そして私は、その店を手放す決断をしました。

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でもあの時はまだ知りませんでした。

大分を離れることが終わりではなく、

人生を大きく変える新しい始まりになることを。

(第三話へ続く)