オーガニック農園にて インタビュー【Coquette Talk On】第二話

防潮林のおかげであまりよく見えないが、林の向こうは海だ。
別府湾が広がっている。
温暖な気候、ほどよい潮風も気持ちいい。
「観光農園っていうかそういう商売されてもいいんじゃないですか?」
この土地のあまりの心地よさに思わずそんなことを聞いてしまった。
「そうやね、そういうのもええなあと思うけど、人が入ると畑が荒れるから、もしそういうことをやるならそれ専用にしないとね。」

この肥沃な畑は昨日今日で出来たようなものではない。
先代の持ち主からずっと、化学肥料は使わず無農薬農法を受け継いできた希少な土地だ。
ここで観光農園だなんて、私はなんて浅はかなことを言ったのだろう。
けれど、この農園には言葉では表現しがたいパワーのようなものを感じる。
たしかに、さっき頂いたカラーピーマンもトマトも驚くほど甘く美味しい。

「子供がピーマンを嫌いってよく言うのは、あれ苦いからやねんけど、本当はピーマンってそんなに苦くないねん。
化学肥料を使うから苦いねん。」
化学肥料を使わないのは、路地ものではたいへん難しい。
レタスとか葉物野菜を無農薬栽培するのは、工場型の農園で生産すれば比較的容易だ。
しかし、そうなると肥料は液肥になって、今度は美味しく作るのが難しくなる。
路地もので日の光りを浴びて育てる場合、きれいに並べてたくさん栽培すると、虫との戦いとなる。

岡井さんの畑は、失礼だが草ぼうぼうだ。
あえてそうしてある。
「こうやってほっとくねん。」
雑草も生えず、畑が絶えずきれいなのは、つまり栄養が足りないから。
すると肥料をたくさん入れ、虫もたくさん来る。

有機栽培といっても、実際のところ肥料はたいして使わない。
草が生えてもほったらかし。
伸びたらカットして、また土に入れる。
自然農法に近い。
虫をあんまり嫌いすぎると薬を使わざるを得ない。

岡井さんの葉物野菜は、虫食いだらけだ。
でもそれも一興、コケットではお客様に
「無農薬の野菜なので、虫食いだらけですが…」
と説明している。
お客様のほうもまったく気にしない。
むしろ「安心の証」と言ってくださる。

「作ってるものに愛情かけてとはいうけど、僕なんかが考えてるのは、自然に即してやって行くっていうかね、環境を壊さないこと。
ただし、自然農法がじゃあ究極に良いのかっていうと、それではみんなが食べられない。
ごく一部の人しか食べられない贅沢品になってしまう。」
自然農法のように究極的にこだわると収穫量が格段に少ない。
そこまで究極でなくても、収穫量もそこそこで、美味しくて、環境を汚さない。
そのへんがちょうどいい。
なにごともバランスが大事だということか。
しかし、バランスを保つことほど難しいことはない。
料理でも「いい塩梅」という言葉があるが、足らずでもなく過ぎているでもない、ちょうどいい塩梅というのが難しい。
岡井さんは、畑に手間をかけるというよりも、気を掛けているように感じた。

いつも気にかけている、心を向けている、それこそが愛情なのだ。
子育ても似たようなもので、遊びや旅行に連れて行くことや服や道具を買い与えるよりも、いつも気にかけてやることが大事だ。
そうすれば、子供のちょっとした心の変化にも気づいてやれるし、大事な時に手を差し伸べられる。
なによりも子供自身が、心を向けられていることへの安心感の上に伸び伸び育つ。

畑に初めて足を踏み入れた時に感じたパワーのようなものの正体が分かったかも知れない。
それは岡井さんの“気”だ。
“こころ”と言いかえてもいいだろう。

「何事も心がけ一つで何とでもなる」とか「心を込めて」なんて言葉をよく聞くし、口にもする。
しかし、その“心”とやらが一体どんなものか、正直よく分からないで使っていることも多い。
心って、パワーなんだな。
心というパワーは、付け焼刃で得られるようなものではないし、長い人生の中で自然と身に育つものだ。
岡井さんのパワー(心)あふれるあの農園にもう一度行きたくなった。

(完)
高橋香 文


お話しをおうかがいしたのは、
オーガニック農園メープルファーム
岡井宏士さん八栄子さんご夫妻


ごはんとおやつと暮らしの道具店コケット
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